孤高の画家 田中一村展@石川県立美術館(金沢)
さてさて、
今回は、残念ながら、先日終了してしまった展覧会です。
私も最近やっていることを知って、
ちょうど用事があったので、最終日にどうにか行ってきました。
石川県立美術館の孤高の画家 田中一村展です。
田中一村は、タイトルの通り、孤高だったよう。
一生独身で、日展や院展にも落選、個展もしなかったそうです。
また、50歳から奄美大島で制作活動をしていたことから、
”日本のゴーギャン”とも。
数年前、日曜美術館で取り上げられ、脚光を浴び、
巡回展も開催されました。
当時、一村のことを母がとても気に入っていたことをふと思い出しました。
今回の金沢ではさらに、一村が石川県と所縁が出来た
”和らぎの郷(宝達志水町)”の薬草図天井画四十九枚も修復後初公開。
今展覧会は、このお披露目の意味もあるようです。
それにしても……、
本当に、本当に、見に行けて良かったです…。
最終日ということもあり、開館時間から熱心な方々が結構来館。
点数は、90点ほどだったのですが、
優に2時間、堪能しました~♪
メインの薬草図は、特別スペースを設けて、
実際に天井画として、再現展示♪
(見上げて、首が疲れた(苦笑))
薬草図は、S29~30年にかけて制作したそうですが、
”ギシギシ”や”オケラ”、”ハラン”、”アカネ”、”セキリョウ”、”ヒトハ”は、
後の奄美時代の一村を感じさせるような葉っぱの雰囲気でした。
個人的には、一列四行目の”ヨモギ”が、
葉の緑の濃淡が繊細、絶妙で好きでした。
二列二行目の”オケラ”もよかったなー。
痛みがかなり激しかったようで、四行四列目の”スイカズラ”が、
修復後とはいえ、無残な跡がありました。
企画展中、8歳のころに描いた”白梅図”が一番若い頃のものなのですが、
思わず、えっ!!って思う完成度の高さでした。
地元では神童と言われていたのは、至極納得です。
15歳のころ描いた”雪中南天図”は、
金地に雪の白、南天の赤と緑が、本当に、素敵でした♪
お父さんが仏師(絵描き?)ということもあるでしょうが、
やはり天才だったのでしょうねー。
でも、藝大に入ってすぐ、自身の病気など(諸説あり)で、中退。
同期には、東山魁夷などがいたそう。
ここから、(傍から見ると)不遇の絵描き人生が始まったのかも。
一村が若い頃の南画時代の絵の中には、賛(漢詩など)があって、
そんなに字が上手には見えませんでしたが、好きだったのかもしれません。
この時代の”蘇鉄と躑躅”のソテツの葉は、やはり一村ぽかったです。
なんていうか、葉っぱの緑色の表現が、
ベタ塗とグラデーションとその濃淡の感じが一村ぽいんです。
私は、そこにルソーも想起するんですよねー、はい。
で、23歳の頃から、新たな画風に挑戦し、
そのために支援者と断絶したりしながら、邁進。
30歳で、20歳の頃から訪れていた千葉寺のある
千葉市千葉寺町に家を建て、移住。
今回、結構、千葉寺の風景画が展示されていました。
この時期、自給生活で、鳥を多く飼ったそうなのですが、
実際、鳥は好きだったのか、モチーフとして多く登場していました。
数えてみたら、90点弱中、18点に鳥が描かれていましたよ。
S10年代に描かれた”秋色”二点は、
とてもカラフルで、このスカーフが欲しい♪と思ったら、
似た構図のもので、実際に商品化されていました(笑)
この”秋色”の額の色も、絵の色にマッチしていて、絵が引き立っていました。
そして、40歳の頃の作品”秋晴”。
二曲一双の屏風で、金地に千葉寺の風景が描かれているのですが、
とても、とても素晴らしかった―♪
金地が、夕暮れのグラデーションを醸し出し、やはり鶏がいて、古民家がある。
なんとはない田舎の風景なのですが、とても和みました。
でも、この絵で、青龍社展に落選し、主宰の川端龍子と衝突したそうです。
うーん、龍子はこの絵が気に入らなかったのか~。不思議。
S20年代に描いた”忍冬に尾長鳥”は、とても手の込んだ構図で、
羽の色のグラデーションが素敵でした♪
一村は、蕪村や木米が好きだったそうで、
山水画も数点、展示されていました。
S30年作”ずしの花”は、ずしが前面に大きく描かれ、
後方に、山や雲があるという面白い構図で、小品でしたが、よかったー。
S30年作”平潮”は、やはり小品でしたが、
水面の表現がとても綺麗で、素敵でした。
で、S33年、一村50歳にして、奄美大島へ。
奄美では”5年働いて、3年描き、2年働いて、千葉での個展の費用を作る”という
画業10年計画を立てて、日給450円の大島紬の色付けの仕事を
ほんとに5年働いて辞め、画業に専念、”アダンと小舟”もこの頃制作しました。
奄美時代の作品で、よかったのは、
”アダンと小舟”と”不喰芋と蘇鉄”、
それと”枇榔樹の森に浅葱斑蝶”でしたー♪
”アダンと小舟”は、画面全体にキラキラしていて、
画面一番下の砂礫の細やかさがすごく、白黒キラキラ。
その上に、波がこれまた、本当に細やかに描写され、
前面にある木の枝の陰影、葉の形状の伸びやかさと曲線美と
緑色のどこひとつとっても同じ色のない描写…。
空は、まるで太陰大極図のように、夕雲の黒の暗さと晴れている空の光…。
一村が、「この絵は死の命を削った絵で閻魔大王えの土産品」と
知人宛の手紙に記した通り、鬼気が迫る渾身の作品でした…。
皆が、魅了されるのも納得ですねー。
”不喰芋と蘇鉄”は、THE南国(笑)
やはり、もう一枚の「閻魔大王えの土産品」です。
”枇榔樹の森に浅葱斑蝶”は、
葉の色の表現を、白黒の濃淡のみでしていて、圧巻!!
以上、気になった作品を書き綴ってみましたが、
最終日ということもあり、既に図録は完売…。
絵と対峙するのには、やはり体力がいる…と実感した展覧会でした。
皆さんもいつか是非、一村の気迫を感じてみてください。
石川県立美術館 HP
http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/event/9event.html