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僕が小学校5年生くらいの頃、家の近所のおばさんが趣味で油絵を描いていて、そのおばさんが絵を教わっている先生のところへ、僕も少しの間、習いに行っていたことがある。
習うと言っても、結局、僕はスケッチブックに漫画ばかり描いていて、まともに絵らしい絵など描くことはなかった(僕と同じに習いに行ってた同級生は、生真面目に水彩画なんか描いてたな)。

この画家先生はもの静かな、非常に人当たりのいいお爺さんで、僕が鉛筆で漫画しか描かなかろうと何をしようと、いっこう気にせず、あれこれ指図するようなことも全くなかった。
ただ、子供のやりたいようにやらせ、自分はその横で、せっせとパイプを吸いながら、いつもこじんまりしたサイズのキャンバスに、何だか抽象的な油彩画を描いているのであった。

今思えば、あの先生の画家としての素姓は全くわからないけれど、しかし、あの強烈なテレピン油の匂いと、常にラジカセからローテーションしていた越路吹雪のシャンソンだけは、今でも強く印象にとどめている。


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