dpi Magazine
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投稿日 | 2010年11月25日 11:09 |
台湾のデザイン誌 dpi(design popular imagination) Magazine
の2010年9月号に、6ページの特集を組んでいただいた。
dpi誌は11年の歴史を持ち、台湾・中国・香港で発行されている、
中国語と英語のバイリンガル・マガジン。
dpi誌からメールで、インタヴュー取材の依頼を受けたのが4月中旬。
メールで幾度もの質疑応答とPDFによる校正作業を経て、出版に至った。
メールでのやりとりがすべて英語だったので、もぉ大変だってば。
翻訳を引受けて下さった木野鳥乎さんに感謝!
インタビューに答えたり自身の作品を選びながら、
今までの自分と、これからの自分を考える時間が持てたのは、
予期せぬありがたい副産物だった。
Web上で僕を「発見」して下さったChiaminさん、ありがとう。
ひとつ残念なのは、日本の洋書屋さんでは取り扱っていない事。
dpiのサイトは http://tw.mydpi.com/mag/
サイトから雑誌やグッズの購入ができる。ただし中国語ですけど。
dpi magazine インタヴュー
dpi : あなたはオブジェを制作するだけでなく、それを版画やイラストレーションにも使用していますが、それらの作品は従来わたしたちが考える版画からかけ離れたもので、興味深く感じます。オブジェにはどんな材料を使用していますか?どのようにして版画にしていますか?これらの創作の流れを教えていただけませんか?まずスケッチをするのか、とか。そして、創作の時にもっとも気を遣っていることはなんですか?
酒井 : オブジェの材料は、海岸や森林に採集にでかけたり、
ゴミ捨て場から拝借してきます。
時には、知人・友人からもらい受けたりもします。
依頼を受けた仕事によっては、
ラフスケッチの提出を求められることはあります。
しかし、通常の制作ではラフスケッチを起こすことはありません。
私は、作品を完成予想図に近づけてゆくという作業が、どうも苦手のようです。
最も気を使っていることは、加工したり、着色したりの作業をなるべく施さず、
材料になる素材が持っている魅力を充分に生かすことです。
ご質問の版画は、私が勝手に「でじたる版画」と名付けているものです。
デジタルカメラで撮影したオブジェの画像に、フォトショップ上でレイヤーを用い、
様々なイメージを重ねてゆきます。スキャニングした印刷物、紙や板、
あるいは、デジタルカメラで撮影した風景、壁のシミ、
錆びた鉄板など、素材は様々です。
時にはフィルタも使用し、完成したイメージをインクジェットプリンターで
紙に出力をし定着させるのです。
こうした工程は、シルクスクリーンやリトグラフを
デジタルに置き換えた、まさに「版画」ですよね。
私が印刷物や版画にこだわりを持つのは、印刷物が好きで、
大学ではヴィジュアルデザインを専攻し、
卒業後10年間はグラフィックデザイナーとして、
広告・デザイン制作プロダクションに勤務したからなのでしょう。
オブジェそれ自体でひとつの完成形なのですが、
印刷物や版画に定着させる行為は、私にとってもうひとつの完成形なのです。
dpi : 版画の中で、あなたのもっとも気に入っている作品を教えてください。そしてその作品に込められたメッセージも教えてください。
酒井 : コロニーと題した作品です。
これは、新思索社発行の、
中村登流著「鳥の世界」の為に制作したものです。
鳥は特有な社会形態を持ち、大きな群れをなして暮らすのだそうです。
このブックデザインのオリエンテーションを受けた時、
鳥は孤独を感じることがあるのだろうか?
ひとり(1羽)になった時に鳥は何を想うのだろうか?
そんな疑問が頭の中をよぎったのです。
この疑問こそが、この作品のコンセプトであり、メッセージでもあります。
dp i: あなたの作品には日常生活に関係したものが多々あります。また、作品の材料としても、バドミントンや歯ブラシ・ボタンや瓶の栓など日常的なものが使われています。どのようにしてコンセプトを構成しテーマを実現しているのですか?こうした日常的なモノから、どうやってこんなにも豊かなアイディアが浮かぶのでしょう?
酒井 : 普通、バドミントンのシャトルコックと歯ブラシを、
一緒に洗面用ラックに置くことはありませんよね。
しかし、不要となった日用品、かつて日常の一部であったモノは、
「箱」という劇場の中で共演させることができるのです。
彼・彼女ら元日用品は、私にとって表情豊かな役者達なのです。
そしてオブジェ制作は、とても意外性に富んだ、夢中になれるゲームでもあります。
アイディアは、作品の核になる素材を探すことから生まれます。
いくつかの作品を並行して制作し、付け加えてゆく素材・パーツを選んでゆきます。
この工程がたいへん大事です。加工、接着、着色を経て完成です。
難しい技法は何ひとつとして用いていません。
いかに素材と仲良しになれるか、それが一番重要なことです。
dpi : あなたはご自分のスタイルをどう説明しますか?いちばん影響を受けたアーティストまたは影響を受けた時代は?
酒井 : 技法で言えば、コラージュ・アッサンブラージュの分野に属するのだと思います。
影響を受けたアーティストを挙げればきりがありませんが、
特に影響を受けたのは、マルセル・デュシャン(Marcal Duchamp)、
ジョゼフ・コーネル(Joseph Cornell)、トニー・クラッグ(Tony Cragg)、
アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、横尾忠則(Tadanori Yokoo)です。
影響を受けた時代は、私が10代だった1970年代です。
アメリカから多くのポップアート・イラストレーションが日本に紹介され始めました。
その動きに呼応するように、横尾忠則をはじめ日本にもイラストレーターや
ポップアーティストが登場したのです。
同じ頃台頭してきた、ニューロック・グラムロックといったヴィジュアルを重視した
新しいロックン・ロール・ミュージックは、ポップアートの化身に思えました。
これらの事件は、10代の私を興奮させるのに充分だったのです。
dpi : 環境問題をテーマにしたオブジェのシリーズがあると見て取れました。たとえば、 “この地球(ほし)をRAKUENに”, “I'm here(わたしはここにいます)”, and “子供たちの 子供たちの 子供たちへ”. このシリーズを通じてあなたが伝えたいコンセプトとメッセージをお聞かせください。それらはもともとシリーズで創り得たものですか、それとも個々に作られたものでしょうか?
酒井 : 私はレイチェル・カーソン(Rachel Carson)の著書、
沈黙の春(Silent Spring)に深い感銘を受けました。
この3点はシリーズではありませんが、レイチェル・カーソンからの
問いかけに対する私なりの回答なのです。
個々の作品について解説をしましょう。
“I'm here(わたしはここにいます)”
私が子供の頃、昆虫達は身近にいる親しい遊び友達でした。
どんなに科学技術が発達しても、一度滅んでしまったら、
この小さな生命を、人間は決して再生することはできないのです。
私達は、この小さな隣人達の“I'm here”
という声に、耳を傾けなければならないのです。
“この地球(ほし)をRAKUENに”
RAKUENは楽園のことです。英訳すればParadice。
RAKUENは特別な場所ではありません。
木々の騒めき、鳥のさえずり、土の匂い、人々の呼吸、
これらのことを体で感じられる毎日が、あたりまえのように訪れる場所。
そこが、私にとってのRAKUENなのです。
“子供たちの 子供たちの 子供たちへ”
生物が新しい環境に適応するのに、3世代かかると言われています。
昆虫の中には、数日・数週間で3世代交代してしまう種もいます。
人間で3世代と言えば100年の時です。
100年後に私達は、今の環境を子供たちに
残しておくことができるのでしょうか?
dpi : "Face"のシリーズでは、オブジェで顔を表現しています。どのようにして表情を描いているのですか?誰かモデルがいるんですか?
酒井 : 特にモデルになっている人物はいません。
このシリーズは、2001年の夏に開館した兵庫県篠山(ささやま)市にある
篠山チルドレンズミュージアムの為に制作された作品の一部です。
現地で採集した農耕具や、廃校になった中学校にあった
備品・教材を材料にして篠山で現地制作をしました。
21世紀一番最初の夏休みに、このミュージアムを訪れるであろう子供たちを
想像しながら創りあげたものです。
dp i: 今までの作品の中で、あなたにとって特別な、あるいは一番好きな作品はどれですか?そして、その理由も。
酒井 : 2つあります。共に子供の領域に関わる仕事です。
1つ目は、2001年に開館した体験型ミュージアム
「篠山(ささやま)チルドレンズミュージアム」です。
2000年から2001年にかけて、廃校になった中学校を再生する
篠山チルドレンズミュージアムのプロジェクトに参加させていただきました。
兵庫県の篠山市に延べ60日間滞在し、現地で採集した植物や農耕具、
廃校になった中学校にあった備品・教材を材料にして、
壁画をはじめ大小50点以上の作品を現地で制作、ミュージアムの中に配置しました。
2001年の夏にはワークショップの講師も務め、子供たちと交流しました。
私にとってはたいへん貴重な体験であり、
モノ創りの基礎体力をつけてもらった仕事でもあったのです。
2つ目は、日本のテレビ局フジテレビジョンの子供向けバラエティ番組、
ポンキッキーズ21(Ponkickies21)の仕事です。
子供向けとは言っても、大人も充分に楽しめる番組です。
これは、日本のフォークシンガー「イルカ」の"真冬の天使"のヴィデオクリップです。
このヴィデオは、静岡県伊豆の海岸で撮影されました。
オブジェが動くアニメーションではありませんが、
ワンカット、ワンカットが連なり、物語が展開されています。
私の創ったオブジェ達は、まるでずっと昔から、
この海岸で暮らしているように思えました。大自然と音楽との共同作業が、
私に新しいインスピレーションを与えてくれた、とても気に入っている仕事です。
dpi : 仕事場はどんな感じですか?
酒井 : 隅田川という川のそばにあるマンション(アパートメント)の一室を
仕事場として借りています。東京でも下町と呼ばれている地域で、
静かで落ち着いた街ですね。仕事場には、作品とその材料、画材と工具類、
そしてアート・イラストレーション・デザインに関する雑誌や書籍があります。
パーソナルコンピュータで作業する為の机と、オブジェを制作する為の机があります。
もっともオブジェ制作は、座り込んで床の上で作業をすることがほとんどですが。
まるで倉庫のようにモノであふれています。
とても人を招待できるような、洗練された仕事場ではありません。
dpi : 創作(アート・クリエイティング)をすることで、何を得たい、または成し遂げたいと思っていますか?
酒井 : とても難しい質問です。
それはとても困難なことだとは分かっているのですが、
アートとイラストレーションとグラフィックデザインの3点を結んで、
正三角形が描ければと願っています。
そして、創り続けることで世界と人々と繋がっていたいのです。
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