国内最大級アートコミュニティーサイト会員登録数1万人以上

玉本奈々 ― 成るべくして成った人

私はとりわけ運命論者ではないが、世の中にはその仕事に就くべく定められた人がいると思っている。スポーツのトップアスリートはその典型だし、役者や歌手、職人にもそんな人がいる。経営者や政治家の中にも、人の上に立つべくして立った人がいるはずだ。

もちろん彼らは漫然とその地位を得たのではない。人の何倍も修練を積んだ結果である。だが、世の中には同じ努力を重ねても報われない人の方が圧倒的に多いのだから、やはりそれは運命であり使命なのだろう。

玉本奈々は、美術家に成るべくして成った人だ。

幼い頃目が悪く、ほとんど物の輪郭が分からない色彩だけの世界で過ごしたこと。中学生の時に奇跡的に視力が回復し、世の中に直線が多いことに驚いて夢中で絵を描いたこと。高校時代、週末毎に地元の富山から京都に通って絵の勉強をしたこと。就職後、オーバーワークで体調を崩し、死線をさまよった後に美術家への道を確信したこと。様々な経験が現在の彼女を形成している。

作品は、板などの上に布や糸を貼り付けて作った凸凹な面の上に、鮮烈な色彩を塗り重ねて作られている。毒々しいまでの色彩は人の血や肉を思わせ、画面を覆う目や顔、繭玉のような突起、細胞のような形態は、我々の精神の奥底にある名状し難い感情を呼び覚ます。人間の表と裏、美と醜、生と死、様々な感情が撹拌され、一つの画面に昇華されるのだ。その姿はまるで混沌とした宇宙、或いは全てを包み込む慈愛が具現化したかのようでもある。

また、非常に個性的な作風ゆえ、作品を見た人の中には深い感動を憶える人と拒絶反応を見せる人がいるそうだ。そういう点で彼女の作品を一種の劇薬と見ることも出来るかもしれない。

ほどよく小ぎれいで理論武装され、流行への目配せも抜かりない。そんな作品が幅を利かせる現在のアート業界で、美術家に成るべくして成った人=玉本奈々の表現は明らかに規格外だ。しかし、優れた芸術作品が持つ普遍的な力を宿しているのは果たしてどちらだろう。

その答は観客である皆様自身でご判断いただきたい。

偏見を排し、まっさらな精神で作品と対峙すれば、自ずと結論は導き出されるはずだ。

美術ライター
小吹隆文

カテゴリ
絵画・版画
立体・彫刻
作品
タグ[編集]
玉本奈々
現代美術
平面
立体
絵画
1455 0 3 0

BRAVO SEAL

FAN 5

  • 高橋 慶太
  • なすび
  • うみ7
  • nurie
  • ShareArt 展覧会・イベント情報

PICKUP GALLERY

COMMENT

会員登録をしてコメントしよう!

作成したイベント

玉本奈々《LUNA》2大新シリーズ初公開

2大新シリーズ初公開。 ・シリーズ《LUNA》 ・詩のための絵巻物 年譜 初日の3...

玉本奈々 〜ケハイ〜

玉本奈々(TAMAMOTO Nana)は1976年、富山県生まれ大阪府在住。繊維造形物によるレ...

夏季特別企画 玉本奈々 流転 Numb...

株式会社麗の會夏季特別企画 現代美術アーティスト玉本奈々個展 玉本奈々 流転 Numbe...

玉本奈々 在る-数秘

川端康成文学館年に一度のャラリー企画「玉本奈々 在る-数秘」を開催します。

玉本奈々 生息

従来より油彩に麻ひもや布、ミシン掛けなどを用いて不思議な世界を醸し出す玉本作品。今展では着古し...